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教員インタビュー|100年のあゆみ ~わたしと東北大学 Vol.03

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加藤 道代 名誉教授(教育学研究科)

2011年3月11日に発生した東日本大震災。仙台を拠点とする大学として、東北大学も長期にわたって震災復興支援に取り組んできました。

震災直後の2011年9月に設立された、教育学研究科の「震災子ども支援室(S–チル)」もそのひとつ。S–チルの室長として、震災後の10年間を見つめてきた加藤道代名誉教授にお話を聞きました。

現地の声を聞き、子どもたちだけでなく子どもを支える大人たちも支援した

ー 震災発生後、被災地にある大学として、東北大学全体で支援の機運が高まりました。教育学研究科では「震災子ども支援室」を同年9月に開設していますね

ある一人の方が、寄付を10年間するので、それを支援に役立ててほしいと申し出てくださり、教育学研究科で何かできないかということで、「S–チル」を開設したのがすべての始まりです。当初は、活動内容も決まっておらず、本当にゼロからのスタートでした。

そんな中で、震災直後ではあったのですが、まずは被災地を見て回ることにしました。岩手県、宮城県、福島県の沿岸部をめぐり、現地の行政や施設の方々の話を聞き、そこから見えてきたこと、分かってきたことから、「自分たちができること」を手探りで始めました。

ー 実際に聞いた現地の声を、どのようにS–チルの活動に生かしていったのですか

S–チルの当初の目的は、震災で親を亡くした遺児や孤児の支援でした。しかし、多くの人の話を聞き、被災した風景を目の前で見て、皆が喪失していて「誰かの方が他の誰かより大変」ということではないと感じました。ですから、その中で遺児や孤児を探し出して支援するという、選り分け型の支援は、私の中では考えられなかったのです。

私自身の研究テーマが「子どもを育てることによる親の発達」ということもあり、子どもを支援するということは親を支援することだと思いました。ヒヤリングの内容をもとにした当時の私のメモには、「支援が必要なのは子どもだけに限らない。子どもを支えている大人も被災者であり、大きく揺らいでいる。当事者支援というのは、子ども支援、保護者支援、専門家への後方支援、支援者支援だ」という言葉が残っています。

この考えのもと、震災遺児・孤児を育てる里親に対して、日々の悩みや迷いを里親同士で共有できる里親サロンを開いたり、遠方に住んでいても使いやすいという理由から、フリーダイヤルの無料電話相談を始めたりしました。その他にも、支援者の人たちに対する研修や、活動記録の作成など、思いつくことは何でもやってきた感じですね。

「被災者のことを分かった気にならないこと」を自分に言い聞かせてきた

ー 活動で印象に残っていることはどんなことですか

たくさんあるのですが、ヒヤリングでお会いした保健師の方がおっしゃった「電灯があることで夜道を歩くことができる。電灯はそこに立っているだけ、見守るだけでいい」という言葉は、私に「ともにそこにいる」ということの重要性を教えてくれました。あれもやらなければ、これもやらなければ、と当時は思っていましたが、そういうことではないのだと気づきました。

それから、時間感覚。どうしても、「震災から10年」などという外側からの枠組みがある。でも、それとは全然違った時間の流れの中で、被災者の皆さんはそれぞれの「震災後」をたどってらっしゃいます。勝手に頭の中でまとめないこと。分かった気にならないこと。これを常に自分に対して言い聞かせてきた10年間でした。

前に話を聞いたときと、今は違う。でも、違わない人もいる。今のことを感じながら、聞きながら、「今」自分ができることを考える。そういう時間感覚を学びました。

震災後のストーリーを横で聞いてあげられる場所が必要

ー S–チルの活動は2021年の3月で一区切りとなりました。しかし、震災支援というのは、今後も続いていきます。加藤先生ご自身は、そこにどのように関わろうとお考えですか

震災当時何歳で、どのように震災後を過ごしてきたのか。このことによって、その人が受ける影響は違います。異なる震災の影響が、その後の人生の節目にリスクとして表れてくるのです。例えば、進路など大事な選択のときに父母の助言を受けられない。生活の中のちょっとしたことで感じる喪失感。そこに対する支援の必要性を感じています。

大人も同じで、それぞれの震災後のストーリーがあります。何かネガティブなものを抱えたときに、横で話を聞いてあげられる場所が必要です。でも、いつ必要か分からないので、地域やNPOなど、インフォーマルな力が必要だと感じています。

東日本大震災の後も、子どもが自分の力では避けようのない出来事がさまざま起こっています。紛争、虐待、貧困などです。その中で子どもの生活を保障し、年相応の環境や居場所を保障することができるか。私自身、大きな課題をもらったと思っています。


加藤 道代(Michiyo Kato)

略歴

1998年3月東北大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。教育学博士。
1999年4月東北大学教育学部講師、2002年同助教授(2007年より准教授)2011年同教授。2021年より東北大学名誉教授、尚絅学院大学特任教授。
2011年9月から2021年3月まで、震災子ども支援室“S-チル”により、東日本大震災で被災した子どもやその保護者の支援に従事。学外においては、宮城県臨床心理士会子育て担当理事、子ども虐待予防センター仙台スーパーバイザー、仙台市保育専門技術向上支援事業スーパーバイザー、富谷市心理相談員、仙台市教育委員を務めた。

加藤 道代(Michiyo Kato)

略歴

1998年3月東北大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。教育学博士。
1999年4月東北大学教育学部講師、2002年同助教授(2007年より准教授)2011年同教授。2021年より東北大学名誉教授、尚絅学院大学特任教授。
2011年9月から2021年3月まで、震災子ども支援室“S-チル”により、東日本大震災で被災した子どもやその保護者の支援に従事。本学外においては、宮城県臨床心理士会子育て担当理事、子ども虐待予防センター仙台スーパーバイザー、仙台市保育専門技術向上支援事業スーパーバイザー、富谷市心理相談員、仙台市教育委員を務めた。