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資料編|狩野文庫

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狩野文庫ー礎の文庫ー

森彌平治『四季献立式』1巻1冊 (狩野文庫 第6門 19630-1)

東北大学附属図書館は、国宝を 2 点収蔵していることをご存知だろうか。それぞれ中国と日本を代表する歴史書「史記(孝文本紀 第十)」と「類聚国史(巻第二十五)」の、我が国最古の写本である。

いずれの国宝も、もとはある個人のコレクションの一つであった。狩野亨吉。秋田県大館市出身で、第一高等学校の校長、そして京都帝国大学文科大学の初代学長を務めた人物だ。東北大学附属図書館には彼の旧蔵書、約 108,000冊が「狩野文庫」として収められている。

狩野亨吉

東北帝国大学の初代学長澤柳政太郎は、亨吉と中学時代からの親友であった。開学当初、人文系の学部がいまだ開設されていなかったころ、法文学部の設置構想を練っていた澤柳は、亨吉の蔵書をその学問の礎とすべく、彼にその蔵書を譲ってくれるよう働きかけた。

亨吉の好意により評価額の 1/3 程度の金額が示されたものの、その額は 3 万円。現在の価値からすると数千万円にも及ぶ。澤柳は懇意の議員に働きかけ、なんとかその購入額の寄附を得るに至った。

亨吉が蔵書を寄贈するにあたり出した条件は、自分の名前を冠した一群の資料として蔵書すべてを一括で永久に保存すること。この特殊文庫としての取り扱いは、その後、東北大学附属図書館に他の多くの貴重な個人文庫が集まる要因ともなったという。

東北大学の文系学問の基礎を作り、また東北大学附属図書館の貴重なコレクション群の礎ともなった「狩野文庫」。その価値は偉大ながら、その内容は決して近寄りがたい、堅苦しいものばかりではない。

異形ながらも愛らしい妖怪たちが描かれた百鬼夜行や、歌舞伎役者を描いた戲子姿見、教科書でおなじみの解体新書や里見八犬伝。コレクションの一つ一つから、亨吉の教養の広さと深さ、そして彼の新鮮な好奇心までもが窺えるようでもある。

ちなみにあの夏目漱石も亨吉の親しい友人の一人。「吾輩は猫である」の苦沙弥先生、「それから」の代助のモデルとなったのは亨吉だという説も。そして、あにはからんや、漱石の旧蔵書 3,068 冊も「漱石文庫」としてこの東北大学附属図書館に収蔵されているとは、二人を、そして東北大学を取り巻く縁はよほど深いに違いない。

古典の百科事典」「江戸学の宝庫」とも呼ばれる東北大学の至宝「狩野文庫」。10 万冊を超える亨吉と資料との出会い、そして亨吉を取り巻く人々のつながりの一つひとつが礎となり、東北大学の発展を支えてきたのである。

<東北大学まなび情報誌「まなぶひと」vol.15より再編集>

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